ラマダン中の飲食についての注意(マレーシア)

文化

2025年3月17日。ラマダン真っ只中のマレーシアはジョホール・バル。筆者(FUMI)もたまたま同日にジョホール・バルに滞在していた。ラマダンとはご存知のとおりイスラム教の方々は朝日が登ってから日が落ちるまで飲食や喫煙等が一切できない期間なのである。

ラマダン中のマーケット。ムスリムの人々は夕方に屋台で買い物を済ませ、夜、日没とともにご飯を食べ始める。


とあるショッピングモール内で、中華系マレーシア人の若者が、ムスリムの初老の男性から平手打ちを何発もくらう、という事件が発生というニュースが全国に流れた。映像付きで。

理由は簡単。そのショッピングモール内の某レストランでその中華系の若者が昼間に飲食をしていたところ、そのムスリムの初老の男性が「断食期間中にメシを食うとは何事!」と詰め寄り、挙句の果てに平手打ちを何発かくわらせた、という事件である。もちろんその中華系の若者はムスリムではないから断食する必要は一切ないのにも関わらず。

僕はマレーシアにきて33年目だが、こんなニュースを見るのも珍しい。というか過去にあまりこのようなニュースは大っぴらにはならない。小さないざこざはあるにしても。大体その初老の方ももう何十年も地元でそんな光景を見てきたはずだ。なぜならジョホール・バルは中華系やフィリピン系の方々が数多く住んでいる地域で、まさに人種のるつぼの場所だからである。なのにも関わらずなぜ?という理解に苦しむ。

マレーシアは多民族、多宗教の国家であるからして、もちろんイスラム教以外の国民も多くいるのは事実。キリスト教、仏教、ヒンズー、現地民族系、無宗教他。だからもちろん「国の宗教」はイスラム教ではあるが他の宗教崇拝の自由ももちろん認められている。

よって断食中であろうとムスリム以外は普通にご飯を食べても良いし喫煙してもよい。だからレストランもオープンしている店が多いし、ショッピングモール内のレストランの多くがオープンしている。(客はもちろんムスリム以外ではあるが)それが多民族国家で生きていくためのお互いへの理解である。

ちなみに仮にムスリムであろうと、この断食だが決して「やらなければならない」わけではない。例えば女性であれば生理中であったり、妊娠中であったり、男性であっても風邪をひいていて体調が悪いと自分自身の判断で「今日は断食はしない」と決められるのである。僕の友人も先日、インフルエンザにかかったとのことで1日だけ断食を中断し、その日は薬も飲むし、普通にご飯も食べる、とのことであった。だがその分、断食期間が明けた時に1日余分に自分自身で断食を追加せねばならぬ、とのこと。

(だがその友人は「他のムスリム同胞の前で自分だけ食べるのは精神的に気が引けるので、皆が見ていないオフィスの隅でこっそり薬とご飯を食べた」とのこと)

さて話を元に戻そう。確かにその初老のムスリムの方は怒りが心頭に達していたのは間違いがない。が、相手が中華系であろうがムスリムであろうがクリスチャンであろうが、断食を決行するというのは個人個人の判断であるべきなのだ。しかしながら、そうも言ってられない、というのが今日の主題だ。

ラマダンをはじめとした宗教的儀式は確かに他の宗教には関係がない。しかしながらどんなに頭の中で理解していようと、このような事件・事象は起こってしまうのを理解せねばならない。結果的に巻き込まれてしまったら誰にも文句が言えないのである。法に訴えたところで既に事件はおこってしまっており、お互いにとってなんとも後味が悪いのは間違いがない。かといってこの中華系の若者はもちろん権利として、そして法律として行動や信仰の自由が許されているわけであり、ムスリムが断食中であろうと公共の場でご飯を食べて良い自由が認められている。

日本からマレーシアをはじめとするムスリムの人口が多い国に旅行に行く方々へアドバイスをしておこう。ラマダン(断食)中に訪れる場合には、公共での立ち振る舞いを注意する!ということを心の底から肝に銘じて行動してもらいたいと思う。もちろん法律では何をやっても良い、という自由がある。レストランで食べても良いし、歩きながら飲み物を飲んでも構わない。しかしそれは法律がそうなっているだけであって、人々の心とは全く関係がないということを知った上で行動してほしい。法律は法律、心は心なのである。

ちなみに考えてみてほしい。日本でももちろん今の時期、ラマダンは行われている。日本在住のムスリム、そしてもちろん日本人の中にもムスリムはいる。少数ながらも。そこが問題なのである。つまり日本国内においてこのような事件が起こるか?ということを考えるべきである。誓っておこう。日本では100%このような事件は起こらない。誓っておく。なぜなら日本ではイスラム教は「超少数派」だからである。いきなり日本のマクドナルドでラマダン期間にご飯を食べていたらムスリムの方がやってきて口論になり、平手打ちを喰らう、なんてことは絶対に100%起こり得ない。これだけは間違いがない。なぜか?それは集団の意志がそうさせているからである。圧倒的人数が断食をしていないので、その流れを理解するのはごく一般的な人間の心理である。人間なんて所詮そんな生き物なのである。

たしかにマレーシアは6割程度がムスリムであるからして、断食をしていない割合が4割。つまり過半数の集団の意志が働いているのである。ちなみにこの平手打ちを喰らわせた初老の方が日本に旅行にこの期間に来たとしよう。そしたらその初老の方は日本人に平手打ちをさせたか?というごく単純な話である。

もっとわかりやすく言おう。日本の電車内で携帯電話で話している日本人を「日本人が注意することがある」が、その注意する正義のヒーロー!笑 である日本人が外国に旅行に行った際、電車の中で誰か現地の方が大声で電話しているのを注意するか?という話である。絶対にしない。注意できない。言語も通じない。スーパーヒーローどころか、みてみぬふりをしてやり過ごす、超最低なスーパーヒーローに早変わりするのと全く同じことである。(ちなみに公共交通機関の中で携帯で通話しないのは日本だけだからそこも覚えておいた方が良い。世界から見ると異様でしょうがない。電車やバスの中が静かすぎて不気味だ。笑)

また話が飛んだので元に戻そう。かといってマレーシアにせっかく旅行で来たのに昼間にご飯を食べないのはとても悲しい。だから僕は決してご飯を昼間に食べるな!といっているわけではなく、周りに最新の注意をはらい、状況に応じて判断すると良いのではないか、と思うのである。

これは完全な状況判断能力、世界の常識、そして臨機応変な対応が求められる事件だったのである。が、その中国人の若者にとっては寝耳に水である。「中華系」というだけであり、彼とてもちろんマレーシアで生まれてマレーシアで育った国籍ももちろんマレーシア国籍の100%マレーシア人である。20代前半に見える彼も生まれて二十年以上は確実に同じような人生を送ってきたはずだが、いきなりある日他人に絡まれてそれはそれは驚いたことだろう。

ビデオを見る限りその中華系の若者は落ち着いてしっかりと初老と対話している姿を見て、なんだかとてもこの事件そのものにやるせなさを感じざるを得なかった。

みなさんも外国に滞在する時にはそのような注意を払うとよいのではなかろうか。

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